ONE HUNDREDTH

中国、小売、マーケティング、ファッションなどなど

傘のシェアリングサービス「摩傘」

今回の「シェア」は傘!

日本でもすっかり有名になったシェアバイクに始まり、車、宿泊施設などシェアリングエコノミー花盛りな中国に、今度は「シェア傘」が登場した。 

シェア傘は、少し前にも別の会社がスタートさせていたようだが、その時は、提供した傘が全く戻ってこず、中国人の民度を考えるとシェア傘は無理だろうとネタ的に消費されていた。

そんななか、今回新しくスタートしたサービスの名前は「摩傘(モーサン)」。少なからず前例の失敗を学習した上でサービス提供を開始したようだ。

始まったのは地下鉄2号線の各駅。改札を出たところに、幅2mほどの筐体が設置されており、合計48本の傘が収納されている。

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 使い方

  1. まずは「摩傘」のアプリをダウンロード。※iPhoneだと日本のAppStoreではダウンロード出来ない。中国 or アメリカのAppStoreからダウンロードする必要あり。
  2. 携帯番号を入力してSMSで承認番号を取得。承認番号を登録すればOK。※日本の電話番号では登録できないので、中国の携帯が必須。
  3. デポジット39元(600円強)を WeChat・Alipayのいずれかで支払う。
  4. 氏名・身分証を登録してID登録が完了。※「mobike」など他のサービスなら、外国人はパスポートが身分証になるのだが、このサービスは中国人の身分証IDでないと登録できない… → 中国人しか使えないサービスということ!
  5. 自分のアプリで表示させたQRコードを機械で読み取らせたら傘のロックが外れるので、時間内に傘を取り出して完了。

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今はテスト期間中なのか、24時間以内はタダ、以降は1日2元(30円ほど)、7日以上返却されなければ購入したと見なして、デポジットが取られる仕組み。

その他のシェアリングサービスもそうだが、1元や2元の少額でも、WeChatやAlipay決済があることによってスマホ上で支払いが成立するというのが、中国でシェアリングサービスがこれだけ普及している理由の一つだろう。

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実際使うシーンは少なそうだが、アプリ上ではシェア傘が設置されている駅、そこに何本の傘が残っているかが分かるようになっている。

傘のシステムで識別しているのか?返す場所は決まっているのか?別の傘を返したらどうなるの?壊れた傘だったらどうするの?とか色々気になる。

実際サービスを使うことができないので自ら確認することはできなかったが、恐らく傘自体は完全なアナログ傘だと思われる。自転車の「ofo」もそうだが、「mobike」のようなIOT・デジタルでカバーできないところは量でカバーする中国式のやり方だろう。自転車に比べて単価も安いし、すり替えられたりしても問題なしということだろう。
※「ofo」の自転車は鍵の掛かったただの自転車。全てユーザーのスマホだけで管理している。

 

実際広がるのか?

シェアリングエコノミー花盛りと書いたが、果たして中国でこのサービスは広がるのだろうか?恐らく厳しいのではないかと予想する。

まずはじめに、中国人(上海人?)はそもそも傘というものに対する意識が低い。こちらに来て驚いたが、日本と比べると長い傘を持っている人が異様に少ない。折り畳み傘を使っている人が圧倒的である。上海の天気に一日中雨ということが少ないからか、雨予報の日でも、長い傘を持っている人は少ない。何人かの中国人に聞いたら、『雨がやんだら、長い傘を持ち歩くのは面倒臭いじゃないですか』とのこと。合理的というか、面倒臭がりといういうか…。

であれば、一見このシェア傘は「雨が降った時だけ使える便利なもの」のように思えるが、ただでさえ長い傘を持ちたくない面倒臭がり屋の中国人が、傘を使った後、駅まで返しに来るかという事である。

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雨降り → 駅で傘借りて帰宅 → 自宅 → 翌日晴れ → 傘持って駅で返却

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なかなかこの行動パターンは考え辛い。間違いなく家に置き去りになる気がする。

では、「シェア傘」ではなく、「傘の自動販売機」と捉えたらどうか?デポジットの39元は失うが、それで傘は返さなくて良い。つまり、39元(600円強)で傘が購入できるという事である。

しかし、これにも競合が存在する…(笑)。

中国(上海)の街中には、雨が降り出すと、どこからともなく傘を抱えた売り子のおばちゃんが出現し、地下鉄等の出入口で雨宿りしている人たちに売りつけるのである。そこで売られている傘の価格はだいたい10元・20元。品質は相当悪いが、中国人も使い捨ての感覚で買っているようだ。

おばちゃん達が売っている10元・20元の傘に、39元の「摩傘」の傘が勝てるか?恐らくこのデザイン・品質のものに39元は出さないのではないだろうか。

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まずは2号線からスタートしたが、今後地下鉄各線に広がっていく予定ということなので動向を注視したい。それよりも、まず外国人も使えるようにして欲しいが…。

Amazonの先を行く食品スーパー「盒馬鮮生」

アリババが出資する食品スーパー

Amazonが137億ドル(約1兆5000億円)でホールフーズを買収したことは、小売業界のみならず、世界に大きなインパクトを与えた。

Amazonはこれまでも「Amazon Flesh」や「Prime Pantry」で食品カテゴリーへのチャレンジをおこなってきたが、ホールフーズの買収によって、最も購買頻度の高い食品の取り込みに本腰を入れることは間違いないだろう。

今回のAmazonの動きについては、この方のブログが分かりやすい。

食品ECの取り組みについては、日本でもイトーヨーカドーやイオンをはじめとする流通各社が取り組んでいるが、配送時間は最低でも数時間掛かっている。前述のAmazon Fleshも最短で4時間。配送時間さえ早ければ良いというものではないが、食品ECにとって大きな要素であることは間違いないだろう。当然、商品(配送対象商品も)は最も重要だし、それ以外にも、価格、注文・決済方法、送料など様々な因子がある。

現状、食品ECに関して世界を見渡しても「成功」と呼べるレベルまで達してる企業は、まだどこもないと思う。そんな中、アリババから1.5億ドルの出資を受け、配送時間はなんと30分、食品ECのみならずオムニチャネルに関して先進的な取り組みをおこなっている食品スーパーが上海にある。その名も「盒马鮮生(hémǎxiānshēng)」。
※马は馬の簡体字。カタカナ表記すると「ハーマーシェンシャン」。 

 

オムニチャネルの核となるリアル店舗

盒马鮮生は2016年1月に開設された生鮮食品スーパー。イメージキャラクターはカバ。なぜカバ?と思われるかもしれないが、「盒马」とカバの中国語「河马(hémǎ )」は同じ読み方であり、恐らく、箱を意味する「盒」を当て字にして、名前でECの意味合いを表現しているのだろう。

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これまでに上海で10店舗展開しており、今月、北京にも一号店を出店したとのこと。市内中心部にはなく、住宅街に出店している。

店舗から半径3キロメートルまでは30分以内に届けるとしており、顧客からの注文はアプリで自動的に最寄り店舗が選択されて商品が出荷される。各店舗で配送エリアに重なりが少なく、広範囲に対応できるように立地が選定されている。

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視察に行ったのは、地下鉄13号線武宁路から10分ほどの长宁路沿いの店(地図の1番)。OPENして間もない店舗で、入口では早速キャラクターのカバがお出迎え。 

特徴① 配送時間30分を実現する店舗体制

この店の最大の特徴が、ECに対応したリアル店舗の運営体制。一見すると普通のスーパーのようだが、このような赤いパーカーを着たスタッフが、手にはモバイル端末を持ってゴロゴロ店内を動き回っている。彼らはECから注文のあった商品をピッキングする専門のスタッフ。

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注文に応じて店頭から商品をピックアップし、専用バッグに収納、バッグを売場の端にあるクレーンに載せると、天井に張り巡らされたレールを伝って、バッグヤードの配送スタッフに引き渡されるという仕組み。ピッキング係が都度バックヤードまで商品を運ばなくて良いという徹底した効率化。これが配送時間30分という驚異的な時間を生み出している。

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何より、店頭から商品を抜くというのが面白い。そもそもEC在庫という概念がなく、店頭がECの倉庫を兼ねているという証拠。 

特徴② OfflineとOnlineを繋ぐ優れたアプリ

店内の至るところに盒马の自社アプリが告知されており、スタッフもダウンロードを促す。このアプリを使って注文する訳だが、ECだけでなく、店頭でも使用するように設計されている。

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アプリからスキャナーを起動して、店頭の棚札をスキャンするとECの商品ページへ遷移し、Offline to Onlineの出来上がり。

また、アプリ内で後述するAlipay(支付宝)と紐づけるようになっており、店頭での決済にも盒马アプリを使用することになる(※盒马アプリ内でAlipayを起動するイメージ)。もちろん、Alipayのアプリ本体でも決済できるはずだが、それだと小売側には買上・決済データしか残らない。盒马の自社アプリから決済させることによって、顧客データと買上データを紐づけることが可能になる。

ECとしてアプリを使用する場合は、事前にAlipayを登録しているので、決済時に都度カード情報を入力することなく、そのままワンタップで決済が可能になっている。

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ちなみに、このアプリ、店で開いた時と店の外で開いた時でUIが違っている。店外で開いた時には、スキャナーと支払い時に使うAlipayのバーコード表示機能が、メイン画面から外されているという気の配り様。

その他にも、商品棚札は全て、日本ではまだまだ少ない電子棚札が採用されている。価格変更等の情報がタイムリーに反映できる体制が整っていることも見逃せない。 

特徴③ 決済はAlipay

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アリババの傘下に入っているということで、支払い方法は”基本” Alipay(支付宝)のみ。”基本”と書いたのは、開店当初は本当にAlipayのみだったそうだが、顧客から「不便!支付宝使えない人はどうするんだ!」というような声が上がり、やむなく一部現金対応もおこなっているらしい。日本では「あるある話」でも、中国だとその辺はバッサリ切り捨てそうなイメージがするが、さすがスーパー程のマス向け業態になると、仕方なしということなのだろうか。

いずれにせよ決済をAlipayに特化させて、それをOnline・Offline関わらず自社アプリ経由で支払いさせることによって、全ての売上データに誰が買ったかという顧客情報が紐づき、Online・Offline関係なく一元化された状態を生み出している。

 特徴④ 充実した海鮮

MD(商品)面では、盒马鮮生は海鮮が非常に充実している。店舗には大きな生け簀があり、魚や貝やエビや様々な海鮮が取り揃えられている。子供でなくても、見ているだけで楽しい。

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そして、店舗には、購入した魚介類をその場で調理してくれるサービスも用意されている。加工賃は15元(約250円)程度なので、レストランで食べるよりも断然安い。

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視察に行ったのは16時前後の中途半端な時間であったが、それでも多くの人が店内で飲食していた。 ECを強みにした店であるが、新鮮な魚介類をその場で食べるという店頭の楽しさもこだわっているところが、OfflineとOnlineの顧客循環を生み出す一つの要因になっているのだろう。

 

本当に30分で届くのか?

オムニチャネルの要、顧客体験の要となるリアル店舗を視察したのち、実際、ECで注文してみた。注文したのは日曜日の17時。

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自宅から最寄り店舗までは3km以内のはずだが、17時の注文時点で選択可能な配達時間は18時45分から…。まぁ、これが中国の現実か?

とは言え、それでも実際2時間程度で届いたので、他社よりも十分早いとは思う。そして、送料も無料。他にも、もっと安い2〜3元(50円以内)の商品でも試してみたが、いずれも送料は無料だった。恐ろしい…。

中国メディアに寄ると、現状、Onlineからの注文が7割を占めているらしい(7割がそのままECということではないと思うが)。ますます勢いを増す盒马鮮生の動きにこれからも注目したい。

中国で広がる無人店舗の波

無人コンビニ BINGO BOX

先月、上海に無人のコンビニが登場した。日本のメディアでも紹介されたので、知っている人もいるだろう。名前は「BINGO BOX」、中国表記は「缤果盒子」。当て字の缤果(Bīnguǒ)に、盒子(Hézi)=小型の箱の意味 を合わせた模様。

中山市賓哥網絡科技というベンチャーが開発し、フランス系スーパー「欧尚(オーシャン)」と台湾系スーパー 「大潤発」の合弁会社が運営をサポートしているらしい。今回上海にOPENしたのは、その欧尚と大潤発の敷地を使った2店舗。

まずは、このオフィシャルサイトにある動画を見てもらうとイメージしやすい。

 

中国式 Amazon Go

OPEN早々の6月24日にスーパー欧尚の店を見に行ってみた。12号線の宁国路駅から徒歩5分、欧尚の駐車場にポツッと置かれている。

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コンビニというよりは、KIOSKのイメージ。

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入口は鍵がかかっており、入店するにはID登録が必要。

まずは扉横のQRコードを読み取り、WeChatの公式アカウントをフォロー。返されたメッセージからフォームに飛んで、携帯番号とパスワードを登録して初めて扉が開く仕組み。Amazon Goは専用アプリを使って入店するが、中国では日本同様にアプリインストールのハードルは低くないので、WeChatとこちらで一般的な携帯番号を組み合わせた個人認証方法が採用されている。

 ※ちなみに、中国では公衆WiFiなどを利用する時、携帯番号を入力して、SMSで返されたパスワードを登録するケースが多い。ほとんどの場合、中国の電話番号にしか対応していないので、日本からのマーケターが視察に来たとしても、日本の携帯では入店すら出来ないのでご注意を。

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店舗内の様子。SKUは500ほどらしいので、飲料、菓子、生活雑貨など取り扱いアイテムは限られている。

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Amazon Goでは、画像解析や音声・センサー等を組み合わせて顧客行動を解析しているようだが、BINGO BOXでは全商品にRFIDが貼り付けられている。1元(約16円)のチョコレートとかにも貼付されている。

RFIDと言えば、数十年前からあるテクノロジー。過去、自分も10年以上前に業界のSCM(Supply Chain Management)効率化を目的とした会合に参加したことがあるが、10年以上経った今も一向に広がっていない。未だに一部のアパレルが独自に活用しているレベルに留まっている。普及しない最大の理由がRFIDの価格。

調べてみたら、未だに1枚10円以上はしているみたい(もちろんロットに寄るけど)。中国だからRFIDが劇的に安いということないだろうし(そもそも中国の物価が安いというのは既に幻想)、それを1点1点商品に貼る手間を考えると、1〜2元の商品にも貼るってなかなか理解し辛い。

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Amazon Goでは会計は不要。店から商品を持って出るだけで清算されるが、このBINGO BOXは、レジ会計が必要。但し、レジと言っても無人なので、セルフ会計。会計台に商品を置くと、自動でRFIDの情報を読みとって商品が特定されるので、横のディスプレイに表示されたQRコードを読みとって支払いをおこなう。決済方法はAlipayかWeChatかアプリの3 択。中国ではもはや当たり前だが、現金もクレジットカードも使えない。支払いが完了すると、RFIDのステータスが「支払済」に書き換えられるので、商品の持ち出しが可能になる。

※オリジナルのアプリもあるとのことだが、中国のアプリストアでも発見できず。

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入店後、扉の鍵はすぐに閉まるが、購入済の商品を持っていれば、出口付近のセンサーが「支払済」になったRFIDの情報を読み取って自動的に鍵が開く。未会計の商品があれば、当然鍵は開かない。何も買わなかった場合は扉横のQRコードを読み取ると鍵が開く。

誰かに付いて無理やり商品を持ち出すことは可能だが、未会計の商品を持ち出ししようとすると警告音が鳴る。当たり前だが店内には防犯カメラも付いているので、個人が特定されやすい中国・上海でわざわざそのようなリスクを取る人は少ないのかも?

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無人店舗は広がるのか?

正直、洗練されたAmazon Goの顧客体験(もちろん味わったことはないが)とは雲泥の差があるし、劇的な顧客満足があるかと言われると、そんなことはない。QRコードをスキャンしたり、返って面倒臭いと感じる顧客も少なくないと思う。でも、「商品の実物を触れる大きな自動販売機」と考えると、意外に違和感ないのかも?と感じた。

また同じ小売業に携わる人間から見た時、当たるか外れるか分からないし、未完成ながらも、こういった取り組みにスピード感持ってチャレンジする姿勢は素直に尊敬する。中国人・中国企業のこの姿勢は大いに見習う必要がある。

運営会社曰く、15平米の無人コンビニと40平米の従来コンビニを比べると、建設コストは1/4にとどまるうえ、高騰している人件費は不要、家賃は下がるため、運営コストは15%以下にとどまるとのこと。今後の展開に期待したい。

…と言いつつ、上海の高温に対応できなかったのか、自分が見に行った店舗はいきなり休業したとのこと(笑)

 

中国には「BINGO BOX」以外にも既にいくつかの無人店舗が登場しているので、今後視察してみたい。

◆F5未来商店

広州の佛山で試験運営をしていた模様。アメリカに登場した「eatsa(イーツァ)」みたいな感じか?無人とは言いつつ、バックヤードにはスタッフがいる接客がないだけの店舗。

F5未来商店

◆小e微店

いまいちよく分からないが、オフィスビル向けのセルフ会計店舗か?

小e微店—上班族贴心服务站

◆便利蜂

便利蜂

◆TAOCAFE淘宝会员店

杭州に遂にアリババが仕掛る無人スーパーまで登場。

※これは展示会での期間限定店舗。

さすが、中国。すごいスピード感。

はじめに

思いがけない異動

忘れもしない。

2016年11月21日、社長室に呼ばれて「上海に行ってくれ」と受けた辞令。

青天の霹靂とはまさにこのこと。

超ドメスティックな会社に勤めて19年、まさか自分が海外転勤になるとは。

それから3ヶ月の引き継ぎ&準備期間を経て2017年3月から上海に着任。早くも4ヶ月が経過した。

本当は家族で来たかったが、子供が小さく、空気の汚れた中国ではとても育てられないという妻の不安があり、家族は日本に残して一人でやってきた。

こちらに来て様々な環境変化があったけど、一番の違いは、圧倒的に自分の時間があるということ。日本では深夜に帰宅するのが日課になっていたが、仕事内容が変わったこともあって、今では普通に19時には家に帰って来れる。中国語の学校以外は特に予定もなく、休日の家族サービスも必要ない。全てが自分の時間。まさにフリーダム。

今までは「自分は忙しいから仕方ないよね」と忙しいことを言い訳にして、会社の仕事しかしてこなかった。そんな仕事人間の自分に、おもいっきり時間の余裕ができてしまった。じゃあ、異国の地で一人何をする?

 

1/100の存在 

以前、恩師であるコミュニケーション・ディレクター 佐藤尚之(通称さとなお)さんから言われたことがある。

「君には仕事以外で、趣味でも何でも良いから、好きなものはないの?」

普通の人なら、ゴルフが好き、ゲームが好き、暇さえあれば映画見に行くとか、人それぞれ色んな好きなことがあるだろう。実際、自分のまわりの友人たちも、トライアスロンやってます、落語が好き、トレランやってます、車大好き、ラーメン大好き、毎日色んな店のカレー食べてます、和菓子なら任せろ、等々、多彩な趣味・嗜好の人が多い。

普通の人ならある趣味、ただ、自分にはそれがない…。

学生時代はサッカーやバレーボールをやっていたが、それが大好きというほどではない。「日本代表の試合は欠かさず見る」とか、そんなことはまぁない。スキーやスノーボード、ゴルフ、流行や年齢に応じた機会でそれなりに色んなものは経験してきたし、映画や音楽もそれなりには見るし聞く、でも、決して一つの事にどっぷりのめり込むことはなかった。

唯一、自分が昔から継続して興味・関心を持ち続けているのは「ファッション」だけど、それとて、◯◯デザイナーが大好きとか、このブランドのこだわりは◯◯でとか、今年のトレンドは◯◯とか、人様に語れるようなものではないし、限定品が発売されたら並んでも買うとか、そんなモチベーションも持ち合わせていない。単にこんなコーディネート・アイテムがカッコ良い、オシャレと考えるのが好きなだけ。

前述のさとなおさんが、何度か言ってたことがある。それは、「100分の1を作れ」ということ。

佐藤:たとえば僕は、広告業界で「1万人に1人」という位置には入っていないと思いますが、「100人に1人」という位置にはつけていると思っていて。同じく、「食に詳しい人(食の本を数冊出している)」「ネット体験に詳しい人(個人サイトを20年やっている)」というくくりでは、「100人に1人」のレベルに入っていると自負しています。この属性を並べて「広告がつくれて、食に詳しくて、インターネットに詳しい人」とすると、単純計算で1/100×1/100×1/100=「100万人に1人」という割合になり、一気にレアな存在になるんです。

目的仲間が自分と社会を豊かにする ー さとなおさんが育てる「4thコミュニティ」 | WORK MILL

 

プロスポーツ選手のように、その分野で1万人や100万人に1人の存在になるまで極めるのは相当難しいけど、100人に1人の存在なら頑張ればできるよねと。その1/100の存在を複数持っていたら、それを掛け合わせることによって希少な存在になれるよねということ。

考えてみたら、芸人が作家やってみたり、絵本を出したり、◯◯芸人とか言ってるのも、芸人 × ◯◯ と別の要素を掛け合わせることによって自分を差別化して、独自のポジションを築いているのだろうし、昔からよくある俳優が料理番組を持ったり、◯◯インストラクターをやるというのも同じ発想だろう。

小売業に就職して約20年が経つ。仮に「日本の小売」については1/100の存在になれていたとしても、他に掛け合わせ出来る1/100はある?

 

1/100を目指して

40才を過ぎて初めての海外生活。自分の時間はたっぷりある。新たな1/100を作るには絶好の機会。

上海に来て4ヶ月、本来なら日々色んなことが新鮮なはずなのに、思ったほどインプットが少ない。もしインプットが足りていないなら、強制的なアウトプットをすれば良い。そうすれば、おのずとインプットも増える。これ鉄則。昔、セミナーでTRANSITの中村さんも言ってた。「アウトプット力を高めることがマーケティング力を高める」と。じゃあ、何をアウトプットするの?

中国は日本とは比べ物にならない世界一のモバイル先進国。スマホさえあれば本当何でも出来る。財布も要らない。中国はパソコンが普及しないままスマホの時代が来たので、生まれながらにモバイルファースト。そして、スピード感・実行力も素晴らしい。日本のように机上の空論を重ねるようなこともない。とりあえず、やってみる文化。

幸い自分は日本にいる間、数年間、デジマ(デジタルマーケティング)に携っていた。社内ではデジタルの人と思われている。まわりには日本のマーケティング界隈のトッププレイヤーたちもいる。この中国でこの分野を追っていくことによって、もしかしたら、自分に新たな1/100が出来るかもしれない。そんな自分への期待を胸にブログを開設してみた。

開設してみたものの殆ど更新できなければ、今までの自分と同じということw