ONE HUNDREDTH

中国、小売、マーケティング、ファッションなどなど

アリババのものではなくなった独身の日

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11月11日、中国では「双11(シュワンシーイー)」と呼ばれる2017年の「独身の日」が終わった。今年はアリババが運営する天猫(Tmall)・淘宝(Taobao)の取扱高は、過去最高の1682億元(約2兆8594億円)になったようだ。楽天全体の取扱額が3兆円であることを考えると、たった1日で凄まじい売上だ。

日本でも今年からYahoo!やイオンなどが中国の独身の日を倣ったキャンペーンを始めたようだが、その盛り上がり感は全く異なる。

このニュースは日本の多くのメディアでも報道され、その額の大きさに対する驚きと共に、アリババの凄さの裏返しとして、旧来型の実店舗小売の厳しさが象徴的に描かれている。

しかし、上海に来て8ヶ月、現地で初めて独身の日を体験した感想は少し違った。今回はこのことを綴ってみたいと思う。

 

アリババの独身の日

アリババが2009年にスタートさせた独身の日のキャンペーン。独り身を意味する「1」が4つ並ぶ日、昔はコンパを行うのが主流だったらしいが、2009年、アリババはその日に「恋人のいない人はネットで買い物をしよう」と初めてSALEを行った。最初の年の売上は、わずか0.5億元(現在のレートで約8.5億円)。"わずか" と書いたが、実際のところ、0.5億元でも凄い数字だ。

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アリババの独身の日の売上推移(※公表数値をもとに筆者作成)

しかし、そこから9年、中国経済の発展、インターネット・SNSの普及、第三者決済の活用、物流網の発達など様々な外部要因も重なって、2017年の売上は1年目の3300倍以上の1682億元に成長。中国、いや世界を代表する一大プロモーションに進化した。

このアリババの取り組みについて、個人的に気になったポイントを紹介したいと思う。

 

①圧倒的な露出

まず驚いたのは、圧倒的な露出である。10月中頃から、街中の至るところで双11の広告を目にした。 地下鉄各駅の主要な広告枠は、ほぼアリババに押さえられていた。たまに強豪のECプラットフォーマーである「京東(ジンドン)」の広告も目にしたが、その量は比べ物にならない。 広告フォーマットを見ると、出店企業からタイアップを取っていると思われるが、この1ヶ月ほどのアリババ全体の出稿量は想像を絶する金額だったに違いない。

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駅構内をジャックしたアリババの広告

また前日の11月10日には、アリババCEOのジャック・マー(馬雲)が出演する映画『功守道』が放映された。日本でもお馴染みのジェット・リーが総監督を担当し、サモ・ハン・キンポー朝青龍まで登場する力の入れようだ。

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ジャック・マーが出演する「功守道」の広告

極め付けが、直前の10日の晩に開催されたイベント。毎年豪華ゲストを招いて実施されるイベントに、今年はファレル・ウィリアムスニコール・キッドマンマリア・シャラポワらが招待され、その模様は地上波のTVで生中継された。このTV番組以外にも天猫上では、中国で人気のタレントらが出演するライブ番組が同時に数本配信されていた。

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10日夜にTVでも放映されたイベントの様子

 

②魅力的な価格

何と言っても顧客を引き込む最大の要因である価格。実は5割引を超えるような値段で販売する店は僅かで、大半の店が1〜2割引という情報も事前に耳にしていたが、実際どんな価格設定になっているのか、自分でも買い物してみた。

adidas で人気の「stan smith」だが、中国での定価は899元(約15,200円)。これを天猫内で探していると、最安値はadidasの直営だったが、いざ購入しようとするとすぐ売り切れに。仕方なく別の店を選択。558元だが、ここから店が提供しているクーポンを使用すると、538元(約9,150円)約40%OFFの価格になった。

もう一つ、当日、実店舗を視察してまわった時に気になった商品。「SUPERDRY」というブランドのもので、実店舗では定価通りの1099元(約18,700円)。定価であれば買うつもりはなかったが、これを天猫でチェックすると879元。そこからブランドのクーポン、さらに天猫のクーポンを使用することができ、最終的には719元(12,200円)約35%OFFの価格に。

まさに実店舗がECのショールームとなる「ショールーミング」の行動となった。

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双11時の全商品のデータを持ち合わせている訳ではないので実際の値引き状況は分からないが、少なくとも私が出会った商品に限れば、確かに魅力的な価格であった。

 

③リアルとの連携

アリババが「新小売」の構想を発表し、最近力を入れている実店舗との連動も強化された。過去にこのブログでも触れたスーパーの「盒馬鮮生」や「口碑」を使ったO2Oも彼らの新小売構想の一環だが、双11には、日本人が見覚えのあるゲーム(!?)が導入された。

これまでもアリババの特別なイベント時には活用されていたそうだが、位置情報と連動させて、街中でゲームを起動すると天猫のキャラクターである黒猫が出現。

黒猫を捕まえると飲食店や物販店などで使えるクーポンを入手できるというものである。クーポンの内容は、例えばスターバックスではラテが貰えたり、KFCではチキン、アパレルブランドでは値引券といった形だ。手に入れたクーポンをフックにして、そのブランドの実店舗へ誘導するO2O(Online to Offline)の取り組みである。

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クーポン等がもらえるO2Oゲームの画面

また、新小売構想でパートナー企業になっている百聯グループの「八百伴」百貨店をはじめとするいくつかのスポットでは、このゲームを使って紅包(お年玉のようなもの)が配布された。

店の前で、限られた時間しか出現しない黄金の猫を捕まえると100元、常時出現する「百聯猫」を捕まえると100元以上の買い上げで20元引きになる券が貰えるというもの。この紅包を求めて八百伴の前には多くの人が集まり、一時期、日本各地でポケモン出現スポットに夜な夜な人が集まっていたのと同じような光景が見られた。

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紅包を獲得する為に八百伴の店の前でゲームをする人たち

 

アリババ以外の独身の日

ここまではアリババの圧倒的なパワーに触れてきたが、中国ではこの双11=独身の日をアリババだけのものにするのではなく、EC含む小売業全体にこのキャンペーンを取り入れる動きが広がっている。

 

京東の取り組み

アリババに次ぐ業界2位で、中国のEC市場の約1/4を占める「京東(ジンドン)」。彼らもアリババを倣って、2012年から双11の取り組みをスタートしている。

今年の京東の売上は、11月1日〜11日の合計で1271億元(約2兆1600億円)に達したようだ。単日の売上ではないにせよ、ECのトップ2社で合計約5兆円とは信じられない規模である。

彼らの強みである電化製品や自社販売商品の打ち出しを強化したり、アリババは配送が遅いという弱点を突いて即日配送を訴求するなど、差別化を図っている。今年は、騰訊(テンセント)、百度バイドゥ)、網易(ワンイー)など中国の大手メディアからの送客も強化された。

 

実店舗の取り組み 

ネット上の盛り上がりを取り込もうと、実店舗でも双11の取り組みが多く見られた。

大半の店は買上金額に応じて買物券をプレゼントしたり、値引きをしたり、ハウスカードのポイントの付与率を上げたり、何らかの経済特典を用意して実店舗でもお得に買い物ができることを訴求するものである。

もちろん、ラグジュアリーブランドでは実施されていなかったし、賃貸借型のビジネスモデルであるショッピングセンターではブランド/テナント個別の取り組みレベルであり、館全体で取り組んでいるのは百貨店が中心であった。

特に経済特典が魅力的だったのは、前述の八百伴。600元以上の買い物で360元の買物券をプレゼントするというもの。率にすると、360 ÷(600+360)= 37%であり、決してアリババや京東に劣らない特典だ。

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また、百貨店・ショッピングセンター内のブランド単位では、実店舗の販売価格がECと同じ価格であることを謳って、実店舗での買い上げを促進する動きも見られた。

下記写真は今年のアリババの双11で総合6位の売上になったユニクロの店舗だが、入口のショーウィンドーにはECと同価格であることが訴求されていた。

ユニクロは他にも、ECで購入した商品を実店舗で受け取れるようにし、その場合はさらに10元値引きするキャンペーンも実施。商品交換・返品にも応じるとして、EC⇄実店舗の垣根を取り払ったオムニチャネル型の双11が展開された。

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ECと同じ価格であることを謳ったUNIQLOの店舗

 

アリババだけのものではなくなった独身の日

双11に取り組む企業が増える一方で、このような実店舗の取り組みを冷ややかに評価するメディアも散見される。いくら実店舗がアリババ・ECに対抗しようと頑張ったところで、ECの勢いには叶わないというものだ。

※上記は2016年の記事

確かに経済特典頼みのプロモーションは通常時の買い控えを生む恐れがあるし、コストの負担も大きい。ECと同じ価格と言っても、アリババ・京東ともに商品によっては適用できるクーポンを使えば、実店舗より安くなる可能性はある。

しかし、今回上海のいくつのか商業施設を見てまわって、各施設・ブランドの集客・買上状況や、そこにいる顧客を観察していると、とてもそんな風には思えなかった。

今年の独身の日が土曜日だったことも大きいと思うが、双11にしっかり取り組んでいる実店舗は客で賑わい、レジには列ができ、その場は明らかに「買い物しよう!」という空気感に満ち溢れていた。事実、私が勤める店も好成績を納めることができた。

また、まわりの中国人からは、期間限定のクーポンや予約購買など販売方法が複雑になりすぎて分かりづらいといった声や、配送に時間が掛かるから実店舗で買うなど、ECに対する不満の声も聞かれた。独身の日はアリババが主役であることには間違いないが、決してアリババだけのものではなくなってきているのが実情だ。

 

小売にとっての独身の日

独身の日を理解する上で、中国の小売の状況についても触れておきたい。"中国" と書いてしまったが、私が知っているのは上海だけで、上海と他の都市では環境が大きく異なるらしいので、以下は上海に限った話として理解いただきたい。

 

中国の小売が置かれた状況

 

◆急激に進む小売の進化

中国人は買い物好きだ。これは間違いない。

80〜90年代にパリのラグジュアリーブランドに日本人が行列して買い物していた光景が今は中国人に取って代わっている、というのはよく聞く話だ。では、今の中国が日本の30〜40年前と同じかと聞かれると、それは大きく異なる。

こちらに来て感じることは、日本の小売が30〜40年間ほどかけて経験してきたことが、中国では僅か10年ほどの驚異的なスピードで進行しているのではないかということだ。

80年代に専門性や価格を武器に登場した「カテゴリーキラー」、90年代以降に急速に増加したアウトレット含む「ショッピングセンター」、そして00年代以降の「EC」等、日本の小売には10年おきに大きな変化が起きてきたが、中国ではこれらが一気に起きているという印象を受ける。

街には六本木や表参道にあってもおかしくないお洒落な商業施設やショップがあるかと思えば、ここは戦後かと目を疑いたくなるような光景も街中に残っている。発展スピードが早すぎる為に嗜好の振り幅、感度の振り幅も大きい上に、貧富の格差も日本とは比較にならないほど激しい。中国は「平均」という物差しで測ってしまうと危険なマーケットだ。

 

◆EC化率は15%

下記は中国の全小売の売上を実店舗とオンライン(=EC)に分けて集計したものだ。2016年の市場は約33兆元(約561兆円)、オンライン売上は5.1兆元(約87兆円)でその割合は15%を超える。この僅か数年の間にEC化率は急速に高まり、日本の7%、アメリカの11%と言われる数字を一気に抜き去り、世界で有数のEC先進国になった。

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中国の全小売売上の推移(※国家統計局のデータ等を元に筆者作成)

 

◆鈍化する成長率と供給過剰

しかし、これを成長率ベースで見ると、その伸びは明らかに鈍化してきている。依然ECの成長率は+30%以上と高いことには違いないが、勢いは落ちてきている。

小売業全体の成長率も右肩下がりで、いよいよ+10%を切る値に近づいている。大都市だけでなく、地方でもますます中間層が増加することによって消費の拡大が期待される一方、成熟化に至るスピードも早い為に消費全体の成長も鈍ってきているのである。

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EC・実店舗・全体 それぞれの成長率の推移(※国家統計局のデータ等を元に筆者作成)

ちなみに、商業施設の開発スピードも凄まじい。上海では、2016年に29箇所・約200万平米の商業施設が開発された。日本の主要10都市にある百貨店の合計面積が約290万平米なので、上海一都市のたった一年で、日本の主要百貨店の2/3に当たる面積が開発されたことになる。小売全体の成長が鈍化してきているにも関わらず、実店舗の供給過剰も凄いスピードで進行している

 

◆モノからコトへの移行

日本では「消費のモノからコトへの移行」と言われているが、この動きはここ中国も同じだ。

両親と同居、或いは近所に住んでいることが多い上海人は、その6つの財布(父方の両親+母方の両親+父母)をフルに活用して、子供(孫)への投資(教育)に熱心だ。

郊外のショッピングセンターには、英語やダンスを教育する施設や、家族で楽しめる体験要素の詰まったエンターテインメント施設が入居し、週末には家族連れで賑わっている。また、ジムも街中至るところに出来ており、若者中心に健康志向が広がってきている。お金の使い道が、モノからコトに急速に移行している。

 

独身の日から若干話が逸れてしまったが、言いたいことは、中国の小売の成熟化は急速に進んでおり、買い物好きの中国人に対しても、「モノを売る」という行為がどんどん難しくなっているということである。

 

一つの歳時記になった独身の日

最後に繰り返しになるが、この独身の日は中国の "小売業における最大のお祭り" に成長したのだと思う。

小売業の人間が販売計画を作る際に最も重要視するのは「歳時記」である。 歳時記とは企業によって呼び方は様々だが、例えば、母の日や父の日、バレンタイン、クリスマスなどのことを指す。お中元・お歳暮も歳時記の一つだ。

"世の中ごと" としてプレゼント等を贈るという既に生活者の中で認識されているモチベーションに対して、自分たちの店が選ばれるように、各社独自のイベントを企画して話題性を創出したり、値引きや景品などの経済特典を付与したり、少しでも沢山の人に買ってもらえるように努力する。

なぜ歳時記を重視するかと言えば、理由はシンプル。既に「モノを買う」というモチベーションが存在しているマーケットなので、そこにアプローチするのが最も効率が良いからである。裏を返すと、このモノ余りの時代に「モノを買いたい」というモチベーション自体を作りだすということは非常に難しく、一企業が頑張ったところで反応してもらえる顧客(既存・新規)はわずかである。

そういう意味で、独身の日は既に中国人の中に「買い物したい」というモチベーションが出来あがっているマーケットだ。そして、そのモチベーションは、アリババの範疇も、ECの範疇も超える大きなものに成長している。もはや独身の日はアリババのものではなくなっているのだ。

ここまでこのマーケットを育てたのは間違いなくアリババであり、アリババの功績である。中国の小売業なら、このマーケットに乗っからない手はない。

 

※記事内の円表記はすべて1元=17円で計算

中国で無人レジは広がるのか?

かなり日があいてしまったが、前回の中国のモバイル決済に関するエントリーは多くの方に読んでいただいた。日本でもこの分野に関する関心が非常に高いことを痛感。また、ブログを始めたばかりの自分の文章が、多くの方に見てもらえる「喜び」を感じると共に、「発信することの責任」を感じる良い経験となった。そして、この個人ブログがハンズラボ(株)のブログに転載されることになり、より多くの方の目に触れることになった。機会をいただいた代表の長谷川秀樹さんには、この場を借りて御礼申し上げたい。

 

コンビニでセルフ会計がスタート

さて今回は、上海のコンビニエンスストアでたて続けに無人レジが始まったということなので、週末視察に行ってみた。一つは7月から始まった上海の「ローソン」、もう一つは9月から始まった新興コンビニの「24鮮」。

"無人" と言うと、一見「Amazon Go」や中国の「Bingo Box」のような "無人店舗" を想像しがちだが、あくまで "無人レジ" なのでそのレベルは大きく異なる。さらに言うと、タイトルに付けた "無人レジ" という表現にも少々語弊がある。要は、顧客自身に会計をしてもらう「セルフ会計システム」なのだが、日本人がイメージする "無人レジ" とはアプローチが異なる。セルフ会計システムは、日本でも大手スーパーではしばしば見られるようになったが、コンビニへの導入はまだまだこれからだ。

今年の7月に入って、日本のローソンがオフィス内で菓子やカップ麺などをセルフ販売する設置型コンビニ「プチローソン」に、交通系電子マネー専用セルフレジを導入したとの事だが、一般店舗での導入は聞いたことがない。

<参考資料>非現金化セルフレジ専用の設置型オフィス内コンビニ「プチローソン」7月3日(月)より、東京都23区内先行でサービス開始|ローソン

 

24鮮 fresh+

まず最初に見に行ったのが2017年開業の新興コンビニ「24鮮」。現在、11店舗展開しているとのことだが、視察に行ったのは日本人が多く住む娄山関路駅から10分ほど歩いた仙霞路にある店舗。24鮮の取り組みは、アリババ傘下のO2Oサービス「口碑(Kǒubēi コウベイ)」(※後述)との協業によるものである。

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店外にも、店内にも、セルフ会計の告知が派手になされている。24鮮が、この取り組みにかなり力を入れていることが分かる。

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《使い方》

  1. POPに掲示されているQRコードをAlipayでスキャン。Alipay内のタブに設定されている「口碑」の24鮮のページが開くので、「自助結帳(セルフ会計)」を選択。
  2. スキャナーで購入商品のバーコードを読み取る。
  3. カートに入った商品をAlipayで支払い。
  4. 支払い完了画面を店員に提示して、確認してもらった上で退店。 

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使ってみた感想は、特に分かり辛い点もなく、非常にスムーズに購入できた。口碑はAlipayから自動的に起動されるので、特にアプリのインストールも必要ない。しかし、しばらく店内の様子を見ていたが、セルフ会計を利用する客は全くいない。皆、有人レジで普通に入金している。私がセルフ会計の支払い完了画面を提示した時も、店員の反応は「あー、それね」ぐらいの冷めた反応だった。

 

ローソン

1996年に初めて中国に進出したローソン。上海中心部だけで言うと、日系コンビニではファミリーマート、ローソン、セブンイレブンの順で店舗を見かける。視察したのは、上海高島屋と同じ建物内になる国際財富中心の中にあるローソン。ローソンのセルフ会計は、「火星兔子」というサードパーティのアプリを使うのだが、そのアプリで対象店舗の一つに出てきたローソンがこの店舗だった。

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店内に入ると24鮮のようなセルフ会計の告知は一切されていない。嫌な予感…。

《使い方》

  1. 「火星兔子」のアプリをダウンロードして、携帯番号&承認番号を入力して、IDを登録。利用店舗を選ぶ。
  2. 「火星兔子」内のスキャナーで購入商品のバーコードを読み取る。
  3. カートに入った商品をWeChat or Alipayで支払い(火星兔子からWeChat or Alipayを呼び出す)。
  4. 支払い完了画面を店員に提示し、店員がバーコードを読み取って確認(消し込み)したのち、退店。 

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事前に現地メディアでもオペレーションを確認して店舗に行ったが、支払い完了画面を提示すると、店員がこのシステムの事を分かっていない。普通に私がWeChatやAlipayで支払いをするかのように、バーコードを読み取ろうとする。当然、POSレジでは、エラーで弾かれる。私が拙い中国語で既に支払済であることを伝えても、お金を払えとのこと。結果、商品を持ち出すことができず、そのまま退散する羽目に…。

 

中国式セルフ会計システムの評価

中国でもスタートしたばかりのコンビニのセルフ会計だが、この仕組みは今後広がっていくだろうか?ローソンは論外だとしても、24鮮でも当面利用する人はかなり限られるだろう。

しかし、日本のオフィス街のコンビニで毎朝見かける10人、20人とレジに並ぶ長蛇の列。「自分は水一つ買うだけなのに早くして」と思ったことがある人は多いはずだ。この光景は中国も同じである。セルフ会計のメリットは色々あるだろうが、コンビニとって顧客への一番のベネフィットは「便利さ」であることに間違いない。顧客がコンビニに対して抱いているであろう大きな不満の一つを、このセルフ会計システムは解消してくれる可能性を秘めている。このシステムが今後拡大してくれることを期待する。 

 

中国のセルフ会計システムから学ぶべき点

この分野では世界を牽引している中国でもまだまだ普及していないセルフ会計システムだが、日本が学ぶべき点はないのだろうか?もちろん、この手法が必ずしも正解ではないだろうが、日本も参考にした方が良いと思ったのが下記3つの視点。

 

1. 物理的レジを無くしたセルフ会計システム

セルフ会計を考える時、日本人は多くは "無人のレジ" を想像するだろう。実際、日本のスーパーで導入されているのは、店員の代わりに客が自分でレジを操作するものだし、前述のプチローソンも同様の方式だ。また、日本のローソンで実験的に導入されたというセルフ会計システムは、レジ操作を店員の代わりに機械がやってくるというもの。

業界初!完全自動セルフレジ「レジロボ(R)」がこちら。 | TABI LABO

いずれせによ、レジという物理的な筐体を無くす発想はない。しかし、コンビニで無人のセルフレジを置くことは、現実的にはかなり難しいと思う。

 

理由① 処理スピードの問題

上記記事内でこのようなコメントがある。

「導入して以降、『今日は有人レジが混んでいるからレジロボを使おう』と、個人で判断して使っている方が多いです」と同店舗の店長。

無人のセルフレジになれば、本当に会計待ちの行列を早く処理できるだろうか?使い方を分かっていない顧客が利用すれば、間違いなく余分に時間が掛かる。セルフレジの利用者が少ないうちは有人レジより早く入金できるかもしれないが、このセルフレジに客が並び出した場合、恐らく処理スピードは有人の方が早いのではないか?そもそもの業態特性として、スーパーとコンビニでは顧客から求められる会計スピードに決定的な違いがある。

理由② 設置スペースの問題

本格的にコンビニでセルフレジを導入しようと思えば、恐らく会社ごとに専用端末の開発が必要であるし、初期費用もかなりのものになる。加えて、店舗運営側にとって初期費用よりも大きな問題になりそうなのは大切な売場面積をセルフレジに取られてしまう点だろう。都心店に多い売場面積50〜75平米ほどの店にセルフレジを設置して、専用のオペレーションスペースも確保する必要があるとなれば、セルフレジを導入しようと思うコンビニオーナーは少ないはずだ。

 

一方で、この中国のコンビニ2社の事例は、セルフ会計専用のレジは必要とせず、顧客のスマホをレジとして代用している。顧客のスマホがレジ代わりになるのであれば、上記のような処理スピードの問題や設置スペースの問題は解消してくれる。 

 

2. レジの代わりを果たすアプリ

顧客のスマホをレジ代わりにするには、スマホ側にそれなりの機能が必要だ。ハードの投資はなくても、ソフト面でのシステム対応が必要になってくる。

端末側の機能で言えば、位置情報を取りながら店舗を確定し、カメラ機能を制御し、スキャンされたバーコード情報に基づいて商品マスタを照会、AlipayやWeChatペイメントとの連携などが必要だ。これらをWebアプリで実現するのは、なかなか難しい。ネイティブアプリが必要になる。

しかし、中国ではソーシャルメディアの影響力が大きい為か、自社サイト等のOwned Mediaは軽視されがちで、自社の独自アプリを出している企業は日本ほど多くない。結果、サードパーティのアプリを使うことになるが、この時、どのプラットフォームを利用するかが重要になる。

 

①火星兔子

ローソンが使っているプラットフォームは「火星兔子」というアプリ。北京火星盒子科技有限公司という会社が開発したセルフ会計専用のシステムだ。日本のAppStoreでもダウンロードできるので、興味ある方はチェックしてもらいたい。現在、上海市内で利用できる店舗として表示されるのは、ローソンとローカルスーパーの「家得利」。家得利では試したことはないが、いずれにせよ、アプリの利用店舗はかなり限られている。顧客からすると、この為に "わざわざ" ダウンロードしなければならないアプリだろう。

②口碑

24鮮が使っているプラットフォームはアリババ傘下の「口碑(Kǒubēi)」だ。もともとは口コミサービスとしてスタートした口碑(中国語で口碑は口コミの意)だが、今では飲食店のレビューだけでなく、スーパーや商業施設で使える会員向けクーポンや、ホテルの予約、映画のチケット販売、美容・マッサージ等のクーポンやチケット販売など、様々なO2Oサービスを手がけている。同じくアリババ傘下の「餓了么(Èleme)」による宅配サービスもメニューの一つに入っている。

もともとアリババは、同じようなサービスを手がけていた「美団(Měituán)」に出資していたが、飲食の口コミで絶対的な人気をほこりテンセントの資本が入った「大衆点評(Dàzhòngdiǎnpíng)」と美団が合併したこと機に資本を引き上げ、アリババ独自サービスとして口碑に力を注いでいった。今では、Alipayアプリ内の下部4つのタブの一つが口碑になっている。ローソンが使っている火星兔子と違い、殆どの人のスマホに既に入っているアプリである為、顧客の利用に対するハードルも低い。口碑にとっても、今回の24鮮との取り組みは、アリババが掲げる "新小売" の一つのケースになっていくはずに違いない

 

残念ながら、日本でこのようなプラットフォームは聞いたことがない。主なフローは、Offline(商品バーコード読み取り)→ Online(決済)→ Offline(画面提示)であり、機能の中心になるのはOnlineの決済部分だ。選択された商品を顧客のカートに入れて、選択された支払い方法で会計処理、機能としてはECに近い。当然、小売側のシステム対応(商品マスタ連携・売上データ取込・売掛金管理など)があっての話であるし、日本の大手コンビニなら自社アプリを作ってしまいそうだが、既存のECプラットフォーマーでも十分対応できそうな機能だと思われるので、今後是非、日本でもこのようなサービスが提供されることを期待する。 

 

3. 完璧を求めない

最後は、一番中国らしいとも言える。意図してか、意図せずかは分からないが、考え方の違いだ。

ここまで読んでいただいた方なら、商品の確認方法に疑問を持った人がいるかもしれない。たしかにスマホの画面は提示するが、商品1点1点きちんと確認できるのか?現地メディアにも、利用者のコメントで「殆ど確認されなかった」というような声も挙がっている。日本人的発想だと「これでは盗難の危険がある。会計済みの商品かどうか分からない。システムでガードを掛ける必要あり。」とかになりそうだ。しかし、本当に(ほぼ)完璧にシステムでチェックしようと思えば、Bingo Boxのような「RF-ID」を全商品につけない限り、無理だろう。

また、サードパーティのアプリを使っているので、コンビニ各社の会員カードは使えないし、決済方法は限られている。袋が欲しくても袋代は支払えない(中国では多くの店がビニール袋は有料)。セルフ会計だと、できないことが多い。

日本の企業だと「システムが不完全」「既存の機能が使えない」等々、全体最適を重視する傾向から、できない理由を挙げて物事が一向に進まないケースが多いように思う。 "Try and Error" の "Try" を実現するまでに異様に時間を要する。その間に世の中はどんどん変わっていってしまい、最初に考えていた "Try" を実施する頃には、その施策は既に周回遅れになっているという笑えない状況に陥る。もちろん「完璧」が実現できるのであればそれに越したことはないが、特にこれだけデジタル環境が目まぐるしく変わる今の世の中においては、完璧でなくても「実施」を優先する中国企業のこの姿勢は大いに見習う必要があると思う

システムでチェック仕切れないのであれば、運用でカバーしたら良い。コンビニの会計待ちの行列なら、せいぜい朝の通勤時と昼食時の1時間ずつ程度だろう。その時だけ出入口にスタッフが立って、スマホ画面と商品をチェックするようにすれば、十分牽制になるのではないか? さらには、日本のコンビニでも毎回しつこいくらいに会員カードの有無を聞かれるが、僅かばかりのポイントが獲得できるより早く会計してくれることを望む顧客も少なくないはずだ。日本でもこの中国式の仕組みで運用できそうな気がする。

 

いずれにせよ、こういった動きは遅かれ早かれ今後間違いなく広がっていくと思うので、日本でも是非検討いただきたい。

中国でモバイル決済が普及した ”本当” の理由

1. 注目が集まる中国のモバイル決済

様々なメディアで取り上げられているように、中国の都市部では急速にモバイル決済が普及し、キャッシュレス社会になっている。そう、Alipay(支付宝)とWeChatペイメント(微信支付→WeChatの決済プラットフォームのことを「財付通(Tenpay)」と呼ぶ)のことである。自分も上海に来て銀行口座を開設し、Alipay・WeChatペイメントが使えるようになってからは、極端に現金を使うことが少なくなった。スマホと交通カード、この2つさえ持っていれば本当に財布なしで生活できる。むしろ店によっては現金で支払おうとすると嫌がられたり、或いは、現金自体受け付けていない店もあるレベルだ。

このモバイル決済が中国でこれだけ普及した理由について、最近立て続けに日本のメディアが言及している。しかし、いずれも的外れな内容なので(と思う)、今回はこの理由に対する自分の考えをまとめてみたい。まずは、2つのメディアの内容を確認する。

ダイヤモンドオンライン

Alipayが日本に進出するニュースに合わせて、中国でモバイル決済が広がった理由、日本でAlipayが普及するかをテーマにしている。 記事の大まなか内容は、モバイル決済は当初トラブルが続出、安全性が課題になっているが、中国ではそれ以前に偽札が出回っていることが大きな問題だった。多くの人が「現金が一番安全」と考えていて、AlipayやWeChatペイメントで使われているQRコードより更にセキュリティレベルが高いNFCを使ったモバイル決済も広がらない日本で果たして広がるのか?というものである。

つまり、中国でモバイル決済が広がった一番の理由は、ニセ札が横行していた為としている。

WEDGE Infinity

上記ダイヤモンドオンラインの記事に対するカウンターとして出されたのが、この記事だ。

この記事では、Alipayを運営するアントフィナンシャルの担当者のコメントに被せて筆者の主張がされており、大きく3つを要因に挙げている。

  1. 中国ではパソコンの時代を飛び越えて一気にスマホの時代が到来し(=リープフロッグ現象)、それと時を同じくしてモバイル決済も始まったのでタイミングが良かった。
  2. 莫大なマーケティング費用が投下された
  3. 決済手数料が安い

話は少し逸れるが、この記事の中で触れられている下記コメントも非常に気になる。

我々外国人旅行者にとってもっとも印象的なのは鉄道切符の購入ではないか。かつては鉄道切符を買うのにも半日がかりだった中国だが、今では数分間、スマホを操作するだけで予約から決済まで終了してしまう。

外国人・旅行者は中国産のサービスを享受し辛いというのが私の考えだが、この件についてはまた別の機会でまとめてみたい。

 

2. ニセ札もスマホ普及も "背景" にすぎない

まずはじめに申し上げておくが、ダイヤモンドオンラインの記事も、WEDGE Infinityの記事も間違いだとは思わない。ニセ札問題も、一気にスマホの時代がやってきたことも要因の一つだろう。但し、それらはあくまでも中国でモバイル決済が広がった「背景」であって、主たる要因ではない。

莫大なマーケティング予算が投下されたことも同じだ。もし今、日本でモバイル決済を手がける会社がAlipayやWeChatレベルのマーケティング予算(いくら掛けたのか知らないが)を掛けたら、日本でもモバイル決済が中国並みに普及するだろうか?私には到底そのように思えない。これもあくまで間接的な要因に過ぎない。

決済手数料が安いことは間違いない。では、なぜ彼らはそのような手数料が実現できたのか?そこを考える必要がある。

ちなみに、私が考える「背景」を付け加えるなら、Alipay・WeChatが抱えていた大量のユーザー数を挙げる。

モバイル決済が本格的に広まり出したのは2014年頃からであるが、Alipayはもともと中国で圧倒的な規模を誇るアリババのECサイト、C2Cの淘宝(タオバオ)、B2Cの天猫(Tmall)を運用しており、更にそこでオンライン決済サービスを提供していた。Alipayが生まれたのは2004年であるが、そこから2015年時点でのAlipayの"アクティブユーザー"は2.7億人強ということである。

一方、中国版LINEとされ、今や中国のスマホの94%をカバーするメッセンジャーサービスのWeChatも、2014年時点で既に4億人強のユーザーを抱えていた。また、運営元のテンセントは、2005年からオンライン決済サービス「財付通(Tenpay)」をスタートさせており、2013年時点で利用者は2億人、Alipayに次ぐオンライン決済サービスになっていたのである。

両者ともにオフラインのモバイル決済をスタートさせる以前から、大量に未来の顧客を抱えていたという事である。しかし、これも私はモバイル決済が広がった「背景」に過ぎないと考える。

※ここで言う「オンライン決済」とは主に EC(electronic commerce)上での決済、「オフライン決済(≒モバイル決済)」はリアル店舗での決済のことを指している。

 

3. 鍵になったのは「清算機能」と「市場開放」

銀行と直接繋がることによって出来た清算機能

中国における伝統的な決済モデルは、カード所有者(ユーザー)、小売店、カード発行機関、加盟店管理をおこなうアクワイアラーの4者で構成されていた。カード所有者が小売店で支払いした後、カード発行機関とアクワイアラーの間の清算は銀聯などを通じておこなわれていた。

しかし、ECの出現&拡大と共にオンライン決済に対する需要が高まる。そこに登場したのが、AlipayやWeChat(財付通)などの「第三者決済組織」である。

第三者決済とは、一定の実績と信用を持つ第三者の独立機構が国内外の大型銀行と契約して提供する取引支援サービスをいう。この方法を通してなされる取引では、購入側が商品を選んだ後、第三者のプラットホームが提供している口座に代金を振り込み、第三者によって販売側に振込み完了の通知がなされ、その後商品発送となる。そして購入側が商品を受け取り、問題がないことを確認した後に、第三者にその旨を通知し、第三者は販売側に代金を振り込む。

http://j.people.com.cn/94476/100561/100569/7438414.html

AlipayやWeChat(財付通)などの第三者決済機関は、複数の銀行で口座を開設し、直接銀行と接続するによって、これまでの銀聯などの清算機関を経由せずにユーザー・小売店への支払いと清算の両方をおこなう新たな3者決済体系を構築した

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出典:BTMU(China)経済週報「中国決済市場の発展動向について」https://reports.btmuc.com/File/pdf_file/info001/info001_20151217_001.pdf

オフライン決済におけるアクワイアリング業務の解放

当初、第三者決済機関のフィールドはオンライン上のみで、オフライン(リアル)の決済は規制されていた。オフラインの世界は銀聯に独占されていたのである。

2002年に中国の銀行カード産業の発展を目的として設立された金融企業「銀聯」は、オフラインの店舗に銀聯マークの付いた銀行カードが使えるように、POS連動可能なカード読取機を貸し出し、加盟店の開拓をおこなってきた。これはこれで、銀聯のオフライン決済市場における役割は非常に大きかった訳だが…。

しかし、2013年7月、人民銀行(=中国の中央銀行)は「銀行カード収単(アクワイアリング)業務管理弁法」を公布して、第三者決済機関の "オフライン清算市場" への参入を緩和した。AlipayやWeChatが銀聯に対抗することが可能になったのである。これが決め手になった。

これがなければ、そもそもAlipayやWeChatがオフラインの決済市場に進出することはできなかった。2014年からモバイル決済が急速に広まったのは、このことに起因しており、その後、彼らは配車、紅包(お年玉)、デリバリー、コンビニなど様々なオフライン決済の消費場面に進出して行った。

これのなにがすごいのか?

人によっては、これの何がすごいの?と思われるかもしれない。しかし、これには日本のモバイル決済との決定的な違いがある。

「モバイル決済」と言っても日本には様々な種類があるが、楽天payにせよ、Origami payにせよ、ドコモのおサイフケータイをルーツとしたiDにせよ、既存の電子マネーiPhoneに集約させる事ができるApple Payにせよ、基本的に日本のモバイル決済はクレジットカードのプラットフォーム上で成立している。彼らが担っているのはオフラインの世界における「支払い」機能のみであり、あとの「清算」は全てクレジットカードの仕組みで稼働している(※)。アップルが日本の各銀行と接続して、直接清算業務をおこなう事はできない(ない)。

プリペイド型のSuicananaco等は現金でもチャージが可能。同じくプリペイド型のLINE Payは、各銀行からの直接チャージが可能。 

クレジットカードの世界には、ご存知のようにVISAやMasterCardのような「国際ブランド」、カードを発行する「イシュアー」、 加盟店開拓・管理をおこなう「アクワイアラー」がおり、さらにはCAFISに代表される決済システムを提供する会社などが存在している。プレイヤーが多いということは、当然、各社が収益をあげられるように手数料・利用料金は高くなるということである。日本のモバイル決済は、清算機能をクレジットカードに託さざるを得ないことに限界がある。

一方で中国のモバイル決済の場合は、清算機能を銀聯から奪い取り、支払いと清算を同じ会社で運用する(できた)ことによって、モバイル決済の壁を壊すことができた。(※下記イメージ図を参照)

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4. その結果、実現できたこと

市場開放に伴い、清算機能まで持ったAlipay・WeChatをはじめとする第三者決済機関がオフラインのモバイル決済に進出したことによって、何がもたらされたのか?

まず、Alipay・WeChatペイメントの使い方を確認しておくと、①銀行カードとアプリを紐付け、登録したカードの口座から即座に引き落とすか、②プリペイドカードのようにアプリ内に事前にチャージ(友人から受け取る or 自分の銀行口座から移す)した金額から支払う、この2通りがある。

送受金機能 

前述の通り、Alipay・WeChat ともに銀行と直接繋がっているので、Alipay・WeChatを介して、自由に自分の銀行口座のお金の出し入れができる。実際使ってみて一番便利だなと感じるのが、お金の「送受金機能」だ。

例えば、中国の飲食店では、日本のランチのようにグループで一緒に食事に行っても、一人一人個別清算はしてくれない。代表者が全員の金額をまとめて支払うことになる。立て替えてもらった人は代表者にお金を返す必要があるが、小銭がない。代表者もお釣りがない。そんな時、Alipay・WeChatなら即座に釣り銭の要らない丁度のお金を代表者に送ることができる。Alipay・WeChatに紐付けた自分の銀行口座から送金することも出来るし、チャージしておいた金額から送金することも出来る。

反対にお金を受け取った側も、Alipay・WeChatで受け取ったお金をすぐに現金化することが可能である。受け取ったお金は受取者のAlipay・WeChat上の仮想口座に保有していることになるので、これを受取者が紐付けている自分の銀行口座に「引き出し」を選択すると、即座にそのお金を銀行口座に移すことができる。

まぁ現実社会では、現金を使うことが極端に減っているので、都度自分の銀行口座に移さなくても、次に自分が支払いをする際にAlipay・WeChat上の仮想口座から支払えば済む話である。

格安の料金

日本の銀行で送金・振り込みをしようと思えば、同じ銀行であっても108円、他行に時間外に振り込もうなら数百円取られることはザラである。これが、Alipay・WeChatならほぼ無料で出来る。

最近になって、Alipayは2016年10月から累計2万元まで無料、それより超えて「引き出す」場合は0.1%のサービス料を徴収、WeChatも「引き出す」場合には手数料が掛かるようになったが、送金自体はほぼ無料であることには変わりない。

なぜこんな金額で送受金が出来るのかと言えば、前述の銀行と直接繋がった清算ネットワークに他ならない。Alipay・WeChatと銀行の間に他のプレイヤーがいないので、コストを最小限に抑えられているのである。さらに彼らは、ユーザーがAlipay・WeChat上にプールしているお金を銀行に預けることで、そこから得られる利息を主要な収益源にもしている。2016年にはその預け入れられている資金が5,000億元を越えたという報道もあり、別の問題にもなっている(※後述)。また、何億人というユーザーが何にいくら使ったという購買データ、送受金という時にSNS以上に強いユーザー同士のつながり情報など、彼らの多様なビジネスに生かせるマーケティングデータ(BIG DATA)を獲得できるという側面も挙げられるだろう。

加盟店にとってのメリット

上記2つはいずれもユーザー視点でのメリットを挙げたが、これはAlipay・WeChat決済を受け入れる側の加盟店・小売店にとっても同じメリットを享受できる。

モバイル決済の受け入れ方には小売店のPOSと連動させる方法、専用端末でユーザーのQRコードを読む方法などいくつかあるが、最も手軽なのは、小売店のAlipay・WeChat上の仮想口座のQRコードをPOPで貼っておく方法である。

中国の小売店や飲食店に行くと、よく下記画像のようなQRコードを目にする。これらはその店のAlipay・WeChat上の仮想口座を表している。使い方は、ユーザーがこのQRコードを自分のAlipay・WeChatで読み取り、支払う金額を自分で入力、受取人である小売店へ送金する。そう、先ほどのC2Cの送受金機能がそのままB2Cに活用されているのである。

ちなみに、路上で商売しているような屋台だともっと酷い。QRコードすら貼っていない。その場合は、屋台の店主とその場で友達になって送金するという日本人には信じられない流れとなる

※2017年9月3日20時30分訂正 店主と友達にならなくても送金可能だそうです。失礼しました。

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出典:FeliCaよりお手軽? QRコード決済の実態を中国・深センに学ぶ:モバイル決済最前線 - Engadget 日本版

加えて、小売店側の負担費用も劇的に安いWEDGE Infinityの記事にあるように、ユーザースキャン型だと手数料は無料、以外でも平均0.6%ということである。日本のクレジットカードだと、大手小売店でも1〜3%と言わている手数料から比べると破格の値段だ。

初期投資も、POS改修をおこなわない最も手軽な方法だと、QRコードが書かれたシールを貼るだけ。日本のモバイル決済のように、読取用の専用リーダーやタブレットを用意する必要はない。ダイヤモンドオンラインの記事が指摘しているように、確かにNFC等を使った決済の方がセキュリティは高いし、安全だろう。しかし、それでは受け入れる小売側の負担が大きくなり、対応できる店舗が限られてくる。技術的には劣り、且つ、使い古された技術のQRコードであっても、モバイル決済を拡大させる為には欠かせない機能だったのだ。

これらの要因によって、大手小売店・飲食店に限らず、無数に存在する零細小売店・飲食店にもAlipay・WeChatの受け入れが広がっていき、中国の都市部ならどこでもモバイル決済が使える環境が整ったのである。

 

5. 今後どうなるのか?

だいぶ長くなってしまったが、最後に懸念事項にも触れておく。

急速に拡大した中国のモバイル決済市場だが、当初市場を解放した人民銀行が再び規制に乗り出す。主な理由としては、①資金の流れが不透明になり金融監督業務が困難、②金融規制の範囲外で顧客の預入資産が運用に回されている、この2点らしい。詳しくは下記サイトを参照いただきたい。

対策として、清算機関「網聯(wǎng lián ワンリエン)」という組織が新たに設立される。網聯は、AlipayやWeChatなどの第三者決済事業者と金融機関の間に入り、それぞれの取引を仲介することを目的にしている。この網聯が間に入ることによって、銀聯を経由しないで直接銀行と接続する3者モデルが廃止されることになる。

AlipayやWeChat側の視点から見ると、良く言えば、個別に金融機関と接続する必要がなくなって網聯のみに接続すれば良い(※主要な金融機関とは既に接続済みだが…)、悪く言えば、プレイヤーが増えることによるコスト増や独占していたデータの開放が懸念される。恐らくAlipayやWeChatの本音は「余計なお世話」ということだろうが、そこは中国。国が言っていることには逆らえないというのが実態だろう。

この網聯だが、AlipayやWeChatも約10%ずつ出資して、主幹者としての立場を保っている(※下記参照)。この網聯の登場によって、中国のモバイル決済が今後どう変化していくのか注目である。

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傘のシェアリングサービス「摩傘」

今回の「シェア」は傘!

日本でもすっかり有名になったシェアバイクに始まり、車、宿泊施設などシェアリングエコノミー花盛りな中国に、今度は「シェア傘」が登場した。 

シェア傘は、少し前にも別の会社がスタートさせていたようだが、その時は、提供した傘が全く戻ってこず、中国人の民度を考えるとシェア傘は無理だろうとネタ的に消費されていた。

そんななか、今回新しくスタートしたサービスの名前は「摩傘(モーサン)」。少なからず前例の失敗を学習した上でサービス提供を開始したようだ。

始まったのは地下鉄2号線の各駅。改札を出たところに、幅2mほどの筐体が設置されており、合計48本の傘が収納されている。

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 使い方

  1. まずは「摩傘」のアプリをダウンロード。※iPhoneだと日本のAppStoreではダウンロード出来ない。中国 or アメリカのAppStoreからダウンロードする必要あり。
  2. 携帯番号を入力してSMSで承認番号を取得。承認番号を登録すればOK。※日本の電話番号では登録できないので、中国の携帯が必須。
  3. デポジット39元(600円強)を WeChat・Alipayのいずれかで支払う。
  4. 氏名・身分証を登録してID登録が完了。※「mobike」など他のサービスなら、外国人はパスポートが身分証になるのだが、このサービスは中国人の身分証IDでないと登録できない… → 中国人しか使えないサービスということ!
  5. 自分のアプリで表示させたQRコードを機械で読み取らせたら傘のロックが外れるので、時間内に傘を取り出して完了。

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今はテスト期間中なのか、24時間以内はタダ、以降は1日2元(30円ほど)、7日以上返却されなければ購入したと見なして、デポジットが取られる仕組み。

その他のシェアリングサービスもそうだが、1元や2元の少額でも、WeChatやAlipay決済があることによってスマホ上で支払いが成立するというのが、中国でシェアリングサービスがこれだけ普及している理由の一つだろう。

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実際使うシーンは少なそうだが、アプリ上ではシェア傘が設置されている駅、そこに何本の傘が残っているかが分かるようになっている。

傘のシステムで識別しているのか?返す場所は決まっているのか?別の傘を返したらどうなるの?壊れた傘だったらどうするの?とか色々気になる。

実際サービスを使うことができないので自ら確認することはできなかったが、恐らく傘自体は完全なアナログ傘だと思われる。自転車の「ofo」もそうだが、「mobike」のようなIOT・デジタルでカバーできないところは量でカバーする中国式のやり方だろう。自転車に比べて単価も安いし、すり替えられたりしても問題なしということだろう。
※「ofo」の自転車は鍵の掛かったただの自転車。全てユーザーのスマホだけで管理している。

 

実際広がるのか?

シェアリングエコノミー花盛りと書いたが、果たして中国でこのサービスは広がるのだろうか?恐らく厳しいのではないかと予想する。

まずはじめに、中国人(上海人?)はそもそも傘というものに対する意識が低い。こちらに来て驚いたが、日本と比べると長い傘を持っている人が異様に少ない。折り畳み傘を使っている人が圧倒的である。上海の天気に一日中雨ということが少ないからか、雨予報の日でも、長い傘を持っている人は少ない。何人かの中国人に聞いたら、『雨がやんだら、長い傘を持ち歩くのは面倒臭いじゃないですか』とのこと。合理的というか、面倒臭がりといういうか…。

であれば、一見このシェア傘は「雨が降った時だけ使える便利なもの」のように思えるが、ただでさえ長い傘を持ちたくない面倒臭がり屋の中国人が、傘を使った後、駅まで返しに来るかという事である。

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雨降り → 駅で傘借りて帰宅 → 自宅 → 翌日晴れ → 傘持って駅で返却

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なかなかこの行動パターンは考え辛い。間違いなく家に置き去りになる気がする。

では、「シェア傘」ではなく、「傘の自動販売機」と捉えたらどうか?デポジットの39元は失うが、それで傘は返さなくて良い。つまり、39元(600円強)で傘が購入できるという事である。

しかし、これにも競合が存在する…(笑)。

中国(上海)の街中には、雨が降り出すと、どこからともなく傘を抱えた売り子のおばちゃんが出現し、地下鉄等の出入口で雨宿りしている人たちに売りつけるのである。そこで売られている傘の価格はだいたい10元・20元。品質は相当悪いが、中国人も使い捨ての感覚で買っているようだ。

おばちゃん達が売っている10元・20元の傘に、39元の「摩傘」の傘が勝てるか?恐らくこのデザイン・品質のものに39元は出さないのではないだろうか。

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まずは2号線からスタートしたが、今後地下鉄各線に広がっていく予定ということなので動向を注視したい。それよりも、まず外国人も使えるようにして欲しいが…。

Amazonの先を行く食品スーパー「盒馬鮮生」

アリババが出資する食品スーパー

Amazonが137億ドル(約1兆5000億円)でホールフーズを買収したことは、小売業界のみならず、世界に大きなインパクトを与えた。

Amazonはこれまでも「Amazon Flesh」や「Prime Pantry」で食品カテゴリーへのチャレンジをおこなってきたが、ホールフーズの買収によって、最も購買頻度の高い食品の取り込みに本腰を入れることは間違いないだろう。

今回のAmazonの動きについては、この方のブログが分かりやすい。

食品ECの取り組みについては、日本でもイトーヨーカドーやイオンをはじめとする流通各社が取り組んでいるが、配送時間は最低でも数時間掛かっている。前述のAmazon Fleshも最短で4時間。配送時間さえ早ければ良いというものではないが、食品ECにとって大きな要素であることは間違いないだろう。当然、商品(配送対象商品も)は最も重要だし、それ以外にも、価格、注文・決済方法、送料など様々な因子がある。

現状、食品ECに関して世界を見渡しても「成功」と呼べるレベルまで達してる企業は、まだどこもないと思う。そんな中、アリババから1.5億ドルの出資を受け、配送時間はなんと30分、食品ECのみならずオムニチャネルに関して先進的な取り組みをおこなっている食品スーパーが上海にある。その名も「盒马鮮生(hémǎxiānshēng)」。
※马は馬の簡体字。カタカナ表記すると「ハーマーシェンシャン」。 

 

オムニチャネルの核となるリアル店舗

盒马鮮生は2016年1月に開設された生鮮食品スーパー。イメージキャラクターはカバ。なぜカバ?と思われるかもしれないが、「盒马」とカバの中国語「河马(hémǎ )」は同じ読み方であり、恐らく、箱を意味する「盒」を当て字にして、名前でECの意味合いを表現しているのだろう。

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これまでに上海で10店舗展開しており、今月、北京にも一号店を出店したとのこと。市内中心部にはなく、住宅街に出店している。

店舗から半径3キロメートルまでは30分以内に届けるとしており、顧客からの注文はアプリで自動的に最寄り店舗が選択されて商品が出荷される。各店舗で配送エリアに重なりが少なく、広範囲に対応できるように立地が選定されている。

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視察に行ったのは、地下鉄13号線武宁路から10分ほどの长宁路沿いの店(地図の1番)。OPENして間もない店舗で、入口では早速キャラクターのカバがお出迎え。 

特徴① 配送時間30分を実現する店舗体制

この店の最大の特徴が、ECに対応したリアル店舗の運営体制。一見すると普通のスーパーのようだが、このような赤いパーカーを着たスタッフが、手にはモバイル端末を持ってゴロゴロ店内を動き回っている。彼らはECから注文のあった商品をピッキングする専門のスタッフ。

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注文に応じて店頭から商品をピックアップし、専用バッグに収納、バッグを売場の端にあるクレーンに載せると、天井に張り巡らされたレールを伝って、バッグヤードの配送スタッフに引き渡されるという仕組み。ピッキング係が都度バックヤードまで商品を運ばなくて良いという徹底した効率化。これが配送時間30分という驚異的な時間を生み出している。

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何より、店頭から商品を抜くというのが面白い。そもそもEC在庫という概念がなく、店頭がECの倉庫を兼ねているという証拠。 

特徴② OfflineとOnlineを繋ぐ優れたアプリ

店内の至るところに盒马の自社アプリが告知されており、スタッフもダウンロードを促す。このアプリを使って注文する訳だが、ECだけでなく、店頭でも使用するように設計されている。

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アプリからスキャナーを起動して、店頭の棚札をスキャンするとECの商品ページへ遷移し、Offline to Onlineの出来上がり。

また、アプリ内で後述するAlipay(支付宝)と紐づけるようになっており、店頭での決済にも盒马アプリを使用することになる(※盒马アプリ内でAlipayを起動するイメージ)。もちろん、Alipayのアプリ本体でも決済できるはずだが、それだと小売側には買上・決済データしか残らない。盒马の自社アプリから決済させることによって、顧客データと買上データを紐づけることが可能になる。

ECとしてアプリを使用する場合は、事前にAlipayを登録しているので、決済時に都度カード情報を入力することなく、そのままワンタップで決済が可能になっている。

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ちなみに、このアプリ、店で開いた時と店の外で開いた時でUIが違っている。店外で開いた時には、スキャナーと支払い時に使うAlipayのバーコード表示機能が、メイン画面から外されているという気の配り様。

その他にも、商品棚札は全て、日本ではまだまだ少ない電子棚札が採用されている。価格変更等の情報がタイムリーに反映できる体制が整っていることも見逃せない。 

特徴③ 決済はAlipay

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アリババの傘下に入っているということで、支払い方法は”基本” Alipay(支付宝)のみ。”基本”と書いたのは、開店当初は本当にAlipayのみだったそうだが、顧客から「不便!支付宝使えない人はどうするんだ!」というような声が上がり、やむなく一部現金対応もおこなっているらしい。日本では「あるある話」でも、中国だとその辺はバッサリ切り捨てそうなイメージがするが、さすがスーパー程のマス向け業態になると、仕方なしということなのだろうか。

いずれにせよ決済をAlipayに特化させて、それをOnline・Offline関わらず自社アプリ経由で支払いさせることによって、全ての売上データに誰が買ったかという顧客情報が紐づき、Online・Offline関係なく一元化された状態を生み出している。

 特徴④ 充実した海鮮

MD(商品)面では、盒马鮮生は海鮮が非常に充実している。店舗には大きな生け簀があり、魚や貝やエビや様々な海鮮が取り揃えられている。子供でなくても、見ているだけで楽しい。

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そして、店舗には、購入した魚介類をその場で調理してくれるサービスも用意されている。加工賃は15元(約250円)程度なので、レストランで食べるよりも断然安い。

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視察に行ったのは16時前後の中途半端な時間であったが、それでも多くの人が店内で飲食していた。 ECを強みにした店であるが、新鮮な魚介類をその場で食べるという店頭の楽しさもこだわっているところが、OfflineとOnlineの顧客循環を生み出す一つの要因になっているのだろう。

 

本当に30分で届くのか?

オムニチャネルの要、顧客体験の要となるリアル店舗を視察したのち、実際、ECで注文してみた。注文したのは日曜日の17時。

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自宅から最寄り店舗までは3km以内のはずだが、17時の注文時点で選択可能な配達時間は18時45分から…。まぁ、これが中国の現実か?

とは言え、それでも実際2時間程度で届いたので、他社よりも十分早いとは思う。そして、送料も無料。他にも、もっと安い2〜3元(50円以内)の商品でも試してみたが、いずれも送料は無料だった。恐ろしい…。

中国メディアに寄ると、現状、Onlineからの注文が7割を占めているらしい(7割がそのままECということではないと思うが)。ますます勢いを増す盒马鮮生の動きにこれからも注目したい。

中国で広がる無人店舗の波

無人コンビニ BINGO BOX

先月、上海に無人のコンビニが登場した。日本のメディアでも紹介されたので、知っている人もいるだろう。名前は「BINGO BOX」、中国表記は「缤果盒子」。当て字の缤果(Bīnguǒ)に、盒子(Hézi)=小型の箱の意味 を合わせた模様。

中山市賓哥網絡科技というベンチャーが開発し、フランス系スーパー「欧尚(オーシャン)」と台湾系スーパー 「大潤発」の合弁会社が運営をサポートしているらしい。今回上海にOPENしたのは、その欧尚と大潤発の敷地を使った2店舗。

まずは、このオフィシャルサイトにある動画を見てもらうとイメージしやすい。

 

中国式 Amazon Go

OPEN早々の6月24日にスーパー欧尚の店を見に行ってみた。12号線の宁国路駅から徒歩5分、欧尚の駐車場にポツッと置かれている。

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コンビニというよりは、KIOSKのイメージ。

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入口は鍵がかかっており、入店するにはID登録が必要。

まずは扉横のQRコードを読み取り、WeChatの公式アカウントをフォロー。返されたメッセージからフォームに飛んで、携帯番号とパスワードを登録して初めて扉が開く仕組み。Amazon Goは専用アプリを使って入店するが、中国では日本同様にアプリインストールのハードルは低くないので、WeChatとこちらで一般的な携帯番号を組み合わせた個人認証方法が採用されている。

 ※ちなみに、中国では公衆WiFiなどを利用する時、携帯番号を入力して、SMSで返されたパスワードを登録するケースが多い。ほとんどの場合、中国の電話番号にしか対応していないので、日本からのマーケターが視察に来たとしても、日本の携帯では入店すら出来ないのでご注意を。

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店舗内の様子。SKUは500ほどらしいので、飲料、菓子、生活雑貨など取り扱いアイテムは限られている。

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Amazon Goでは、画像解析や音声・センサー等を組み合わせて顧客行動を解析しているようだが、BINGO BOXでは全商品にRFIDが貼り付けられている。1元(約16円)のチョコレートとかにも貼付されている。

RFIDと言えば、数十年前からあるテクノロジー。過去、自分も10年以上前に業界のSCM(Supply Chain Management)効率化を目的とした会合に参加したことがあるが、10年以上経った今も一向に広がっていない。未だに一部のアパレルが独自に活用しているレベルに留まっている。普及しない最大の理由がRFIDの価格。

調べてみたら、未だに1枚10円以上はしているみたい(もちろんロットに寄るけど)。中国だからRFIDが劇的に安いということないだろうし(そもそも中国の物価が安いというのは既に幻想)、それを1点1点商品に貼る手間を考えると、1〜2元の商品にも貼るってなかなか理解し辛い。

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Amazon Goでは会計は不要。店から商品を持って出るだけで清算されるが、このBINGO BOXは、レジ会計が必要。但し、レジと言っても無人なので、セルフ会計。会計台に商品を置くと、自動でRFIDの情報を読みとって商品が特定されるので、横のディスプレイに表示されたQRコードを読みとって支払いをおこなう。決済方法はAlipayかWeChatかアプリの3 択。中国ではもはや当たり前だが、現金もクレジットカードも使えない。支払いが完了すると、RFIDのステータスが「支払済」に書き換えられるので、商品の持ち出しが可能になる。

※オリジナルのアプリもあるとのことだが、中国のアプリストアでも発見できず。

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入店後、扉の鍵はすぐに閉まるが、購入済の商品を持っていれば、出口付近のセンサーが「支払済」になったRFIDの情報を読み取って自動的に鍵が開く。未会計の商品があれば、当然鍵は開かない。何も買わなかった場合は扉横のQRコードを読み取ると鍵が開く。

誰かに付いて無理やり商品を持ち出すことは可能だが、未会計の商品を持ち出ししようとすると警告音が鳴る。当たり前だが店内には防犯カメラも付いているので、個人が特定されやすい中国・上海でわざわざそのようなリスクを取る人は少ないのかも?

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無人店舗は広がるのか?

正直、洗練されたAmazon Goの顧客体験(もちろん味わったことはないが)とは雲泥の差があるし、劇的な顧客満足があるかと言われると、そんなことはない。QRコードをスキャンしたり、返って面倒臭いと感じる顧客も少なくないと思う。でも、「商品の実物を触れる大きな自動販売機」と考えると、意外に違和感ないのかも?と感じた。

また同じ小売業に携わる人間から見た時、当たるか外れるか分からないし、未完成ながらも、こういった取り組みにスピード感持ってチャレンジする姿勢は素直に尊敬する。中国人・中国企業のこの姿勢は大いに見習う必要がある。

運営会社曰く、15平米の無人コンビニと40平米の従来コンビニを比べると、建設コストは1/4にとどまるうえ、高騰している人件費は不要、家賃は下がるため、運営コストは15%以下にとどまるとのこと。今後の展開に期待したい。

…と言いつつ、上海の高温に対応できなかったのか、自分が見に行った店舗はいきなり休業したとのこと(笑)

 

中国には「BINGO BOX」以外にも既にいくつかの無人店舗が登場しているので、今後視察してみたい。

◆F5未来商店

広州の佛山で試験運営をしていた模様。アメリカに登場した「eatsa(イーツァ)」みたいな感じか?無人とは言いつつ、バックヤードにはスタッフがいる接客がないだけの店舗。

F5未来商店

◆小e微店

いまいちよく分からないが、オフィスビル向けのセルフ会計店舗か?

小e微店—上班族贴心服务站

◆便利蜂

便利蜂

◆TAOCAFE淘宝会员店

杭州に遂にアリババが仕掛る無人スーパーまで登場。

※これは展示会での期間限定店舗。

さすが、中国。すごいスピード感。

はじめに

思いがけない異動

忘れもしない。

2016年11月21日、社長室に呼ばれて「上海に行ってくれ」と受けた辞令。

青天の霹靂とはまさにこのこと。

超ドメスティックな会社に勤めて19年、まさか自分が海外転勤になるとは。

それから3ヶ月の引き継ぎ&準備期間を経て2017年3月から上海に着任。早くも4ヶ月が経過した。

本当は家族で来たかったが、子供が小さく、空気の汚れた中国ではとても育てられないという妻の不安があり、家族は日本に残して一人でやってきた。

こちらに来て様々な環境変化があったけど、一番の違いは、圧倒的に自分の時間があるということ。日本では深夜に帰宅するのが日課になっていたが、仕事内容が変わったこともあって、今では普通に19時には家に帰って来れる。中国語の学校以外は特に予定もなく、休日の家族サービスも必要ない。全てが自分の時間。まさにフリーダム。

今までは「自分は忙しいから仕方ないよね」と忙しいことを言い訳にして、会社の仕事しかしてこなかった。そんな仕事人間の自分に、おもいっきり時間の余裕ができてしまった。じゃあ、異国の地で一人何をする?

 

1/100の存在 

以前、恩師であるコミュニケーション・ディレクター 佐藤尚之(通称さとなお)さんから言われたことがある。

「君には仕事以外で、趣味でも何でも良いから、好きなものはないの?」

普通の人なら、ゴルフが好き、ゲームが好き、暇さえあれば映画見に行くとか、人それぞれ色んな好きなことがあるだろう。実際、自分のまわりの友人たちも、トライアスロンやってます、落語が好き、トレランやってます、車大好き、ラーメン大好き、毎日色んな店のカレー食べてます、和菓子なら任せろ、等々、多彩な趣味・嗜好の人が多い。

普通の人ならある趣味、ただ、自分にはそれがない…。

学生時代はサッカーやバレーボールをやっていたが、それが大好きというほどではない。「日本代表の試合は欠かさず見る」とか、そんなことはまぁない。スキーやスノーボード、ゴルフ、流行や年齢に応じた機会でそれなりに色んなものは経験してきたし、映画や音楽もそれなりには見るし聞く、でも、決して一つの事にどっぷりのめり込むことはなかった。

唯一、自分が昔から継続して興味・関心を持ち続けているのは「ファッション」だけど、それとて、◯◯デザイナーが大好きとか、このブランドのこだわりは◯◯でとか、今年のトレンドは◯◯とか、人様に語れるようなものではないし、限定品が発売されたら並んでも買うとか、そんなモチベーションも持ち合わせていない。単にこんなコーディネート・アイテムがカッコ良い、オシャレと考えるのが好きなだけ。

前述のさとなおさんが、何度か言ってたことがある。それは、「100分の1を作れ」ということ。

佐藤:たとえば僕は、広告業界で「1万人に1人」という位置には入っていないと思いますが、「100人に1人」という位置にはつけていると思っていて。同じく、「食に詳しい人(食の本を数冊出している)」「ネット体験に詳しい人(個人サイトを20年やっている)」というくくりでは、「100人に1人」のレベルに入っていると自負しています。この属性を並べて「広告がつくれて、食に詳しくて、インターネットに詳しい人」とすると、単純計算で1/100×1/100×1/100=「100万人に1人」という割合になり、一気にレアな存在になるんです。

目的仲間が自分と社会を豊かにする ー さとなおさんが育てる「4thコミュニティ」 | WORK MILL

 

プロスポーツ選手のように、その分野で1万人や100万人に1人の存在になるまで極めるのは相当難しいけど、100人に1人の存在なら頑張ればできるよねと。その1/100の存在を複数持っていたら、それを掛け合わせることによって希少な存在になれるよねということ。

考えてみたら、芸人が作家やってみたり、絵本を出したり、◯◯芸人とか言ってるのも、芸人 × ◯◯ と別の要素を掛け合わせることによって自分を差別化して、独自のポジションを築いているのだろうし、昔からよくある俳優が料理番組を持ったり、◯◯インストラクターをやるというのも同じ発想だろう。

小売業に就職して約20年が経つ。仮に「日本の小売」については1/100の存在になれていたとしても、他に掛け合わせ出来る1/100はある?

 

1/100を目指して

40才を過ぎて初めての海外生活。自分の時間はたっぷりある。新たな1/100を作るには絶好の機会。

上海に来て4ヶ月、本来なら日々色んなことが新鮮なはずなのに、思ったほどインプットが少ない。もしインプットが足りていないなら、強制的なアウトプットをすれば良い。そうすれば、おのずとインプットも増える。これ鉄則。昔、セミナーでTRANSITの中村さんも言ってた。「アウトプット力を高めることがマーケティング力を高める」と。じゃあ、何をアウトプットするの?

中国は日本とは比べ物にならない世界一のモバイル先進国。スマホさえあれば本当何でも出来る。財布も要らない。中国はパソコンが普及しないままスマホの時代が来たので、生まれながらにモバイルファースト。そして、スピード感・実行力も素晴らしい。日本のように机上の空論を重ねるようなこともない。とりあえず、やってみる文化。

幸い自分は日本にいる間、数年間、デジマ(デジタルマーケティング)に携っていた。社内ではデジタルの人と思われている。まわりには日本のマーケティング界隈のトッププレイヤーたちもいる。この中国でこの分野を追っていくことによって、もしかしたら、自分に新たな1/100が出来るかもしれない。そんな自分への期待を胸にブログを開設してみた。

開設してみたものの殆ど更新できなければ、今までの自分と同じということw